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小さな地球のように循環する家をつくる「アトリエデフ」

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家は、小さな地球である

20年前に創業した長野県上田市に本社を構える工務店〈アトリエデフ〉は、自然素材にこだわった家づくりを推進している。代表取締役社長の大井明弘さんはかつて別の工務店に勤めていた。新建材を使った自邸を建てたところ、家族にアトピーなどの健康障害が出てしまった。そこで「自然素材の家を建てたい」と提案したが、「無垢材なんてとんでもない」と強く否定されてしまった。それならばと、やりたいことのために独立し、アトリエデフを立ち上げた。しかし、時代が早かった。

「20年前は自然素材といっても理解はされないし、需要もありませんでした。国産材を探そうとしても、どの製材屋さんも外材ばかり。たまに国産材があったとしても、どこのものかもわからない状態だったんです」

代表取締役社長の大井明弘さん。毎朝4時に起きて、畑作業と薪割りが日課。

キッチンなどの水回りは、ヒバやヒノキを使用。

その後、時代が徐々に追いついてきて、2010年に建てられたのが〈循環の家〉と名づけられたモデルハウスだ。建物自体はもちろん自然素材にこだわっているが、それ以上に驚かされるのが、循環型の暮らしの提案。

「この土地内ですべて循環する“小さな地球”であってほしいというコンセプトで建てました。なるべく外部のエネルギーに頼らず、遠くからエネルギーを買うのではなく、循環のなかで、自然の恵みを生かして自分たちでつくる。そして還す。そこに人が暮らすことで、より豊かになるような暮らしをつくりたい」

その哲学はすでに家づくりというものを超越している。

「私たちがやっていること、特にこの循環の家で提示したいことは、家づくりではなく、暮らしづくりなんです。家は暮らしの一部に過ぎません。家が良ければすべて良しというわけではなく、暮らしを変えていかないと、大量生産/大量消費も、環境問題も変わっていきません」

エネルギーや水の循環など、取り組んでいる人たちはたくさんいるが、それを最初から家に組み込んでしまっているコンセプトは思い切っている。

コンパクトに見えるのは、すべてを循環させることで余計なものを必要としない証拠だ。

発電は太陽光発電で蓄電もしている。電気をなるべく使わなくていい工夫、例えば太陽の光を多くとり入れ、昼間は電気をつけなくて大丈夫な設計を心がけている。

「それが大前提です。いまの時代では難しいですが、暮らしや家が変われば、本当は太陽光発電もなくてもいい」

売電もできているので電気はほとんど購入していない。オフグリッドにはせず、中部電力をバックアップとして考えている。

水は雨水を地下タンクに溜めておき、トイレや畑に使用。トイレの汚水は、汚水処理装置である合併浄化槽で処理し、自然の力で濾過するバイオジオフィルターに流している。まだ栄養があるので、セリや空心菜などの水耕栽培が可能だ。最終的にはビオトープへと流れ込む。メダカやおたまじゃくしが元気に泳いでいた。

ほかにも、野菜くずなどの生ゴミは、ミミズコンポストへ。良質な堆肥となって、畑に戻される。薪は自分たちで近くの森を手入れして出た間伐材を割って使っている。薪ストーブにも、薪ボイラーにも使える。自分たちでできることは、なるべく自分たちでやる。

寒い長野の山において、ある意味ライフラインの薪。夏に割って、しっかり乾燥させる。

暮らしを今一度、見つめ直す

社内では、循環型の暮らしを実践している。それは仕事にも影響を及ぼしている。いや、仕事と暮らしが一体化しているというべきか。

「ランチは、みんなでかまどでご飯を炊いて食べます。ということは、11時頃から食事の支度をしなくてはなりません。“就業時間中の11時からこんなことしていいの?“と戸惑うかもしれませんが、これは暮らし=仕事なのです」

ワークライフバランスという言葉があるが、ワークとライフのバランスなんてない。ワークはライフに含まれるものだ。

「スタッフそれぞれに小さい自分の畑があるのですが、昼間に草むしりしようが、畑仕事しようが、暮らしなので当たり前。あと、この営業所だけで薪ストーブが8台ありますが、冬までに毎日薪づくりします。薪がないと凍死しますからね、必死です(笑)」

食事をつくることも、野菜を育てることも、そして暖をとることも、生きるために絶対必要なこと。だから、アトリエデフで働くということは暮らしているということ。それはワークであり、ライフなのだ。

大きな窓からは最高の景色が見える。

玄関から土間を抜けて庭へとつながる。

自然素材の持つ力を体感する

建物自体の設計は、一級建築士の日影良孝さんが担当した。みんなで一緒にコンセプトを練り上げていった。

「こういう家づくりや住まい方を知らせる術がなかったので、モデルハウスをつくりたいと話していたんです。実際に土地を見て、風景を見て、一緒にコンセプトをつくり上げていきました。とにかく風景がすばらしい。これを生かさない手はないと、2階をリビングにしたんです。“空に近く、土に近く”という概念で考えました。中にいるのに、外にいるようなイメージ」と日影さんは話す。

階段を上って2階に上がると、180度のパノラマが広がる。この借景には、誰しもが感嘆の声を上げるという。

右は循環の家を設計した一級建築士の日影良孝さん。大井さんとは旧知の仲。

日影さんが描いたコンセプトスケッチ。自然を意識した家であることがわかる。

現在、アトリエデフでは、宮城や群馬のスギを多く使っている。長野は、というと、カラマツが多く、使いやすい木材ではないという。高温乾燥をしなければならないが、そうするとねばりが落ちてしまう。だから化粧材などとして部分的に使っている。

壁は土壁だ。土壁は、暖かさや涼しさを保ってくれる自然素材。アトリエデフでは、断熱材に羊毛を併用することで、より効果を高めている。冬は暖かく、夏は涼しい。温度と湿度を快適に調整してくれるのだ。それを体感だけではなく、数値でも実証しようと、実験棟を設置。前橋工科大学との共同研究として、前橋市、上田市、諏訪郡原村と3か所の土壁実験棟の温度と湿度のデータをとっている。特に調湿効果は注目に値する。八ケ岳では冬は湿度20%以下になってしまうところを、土壁内は40%に保ってくれているという。取材時は真夏だったが、実験棟の中はかなりカラっとしていて快適。傍らでドライフラワーをつくっていた。たしかに最適な環境だ。

このような能力の高さから、一昨年から建てている全棟、すべて土壁を採用することにした。ただ、ここでも後継者不足。現在お願いしている土壁の土をつくる職人は、長野市の70歳を過ぎた高齢者で、後継者がいない。そこでアトリエデフのスタッフが住み込みで修業に行って、この技術を受け継ぎ、土の自社生産もスタートした。

土壁の実験棟。すでに3年間のデータを集積している。

コンセプトを形にした概念模型。(制作:日影良孝建築アトリエ)

大井社長が上田本社に加えて八ケ岳営業所を設立したのは、もともと違う理由があった。「日本の森を自分の手で整備したくなった」というのが端的な理由。そこで長野県庁林務部に相談して、山の候補地をいくつか見て回り、原村のある森に行き当たった。当時、荒れていた森だったが、地域住民、デフの家のオーナーさんたち、スタッフの力を借りて、かなりきれいな森になってきた。カラマツやアカマツが主で、間伐材は地元の製材所に買ってもらったり、自分たちで薪に使用している。森との関わりを実感する機会だ。チェーンソーや重機も使いこなし、本当に自らの手で手がけてきた。ちなみに田んぼも持っているので、「工務店なのにトラクターや耕耘機もあります(笑)」と、本当になんでも挑戦する姿勢だ。

家は暮らしを包括する場。家を建てる会社が、暮らしの提案をすべて見込んで提案する方法は、とても理に適っているように思える。

「アトリエデフをひとつの家族とみなして、やさしくデザインしました」(日影さん)

土に向かうように、天井が外に向けて下がっていることが横から見るとよくわかる。

information

アトリエDEF(八ケ岳営業所)

住所:長野県諏訪郡原村17217-408

TEL:0266-74-1077

http://a-def.com/

editor profile

Tomohiro Okusa

大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

credit

撮影:阿部宣彦

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