郷土食を日本の隅々から掘り起こし、記録した名著「日本の食生活全集」全50巻(農文協)から料理人・後藤しおりさんが現代の家庭でもおいしくカンタンに作れるよう再現したレシピをお届けしている本連載。ぜひ一緒に作ってみましょう!
理想郷と呼ばれる、肥えた土の地
今回ご紹介するのは、「日本の食生活全集8 聞き書 茨城の食事」に掲載されている茨城県の食事から。茨城県南部、水田地帯でハレの日に食べられている「がりがりなます」です。
茨城県は、日本一の畑作県。「土壌はうるおい、原野は肥えたり」と讃えられてきました。畑で採れる大豆や麦、発達した湖沼や河川から採れる魚貝たち。肥えた土をもち、豊かな食材に恵まれたこの地は、「常世国(とこよのくに)」と称され、理想郷と讃えられてきた歴史があります。
「がりがりなます」は、そんな茨城県の南部で食べられているメニュー。目の粗いおろし器でおろした大根とにんじんを和えた酢の物。白と赤の色合いが目にもおめでたい紅白なますは、お正月にはなくてはならない一品です。
「茨城の食事」によると、もともとは焼いた小鮒の身を入れていました。焼いた小鮒は正月料理のこぶ巻きとして使われるので、それを使ったり、ない場合にはワカサギを使うこともあるのだとか。ですがいま、スーパーなどで小鮒を入手するのは至難の業! そこでしおりさんのレシピでは、タコを使うことにしました。
今回、おいしいがりがりなますを作るために、強力な助っ人をお呼びしました。それがこの「鬼おろし」。
「鬼おろし」は、竹で作られたおろし器。まるで鬼の歯のように鋭利な歯が並んでいて、一見恐ろしいのですが、実はかなりのすぐれもの。竹は熱の伝導率が低いので味を損なわず、また水分や食物繊維が逃げにくくなり、ふんわり、かつシャキっと食材をおろすことができるんです。しおりさんのお料理でも大活躍しているこのアイテム、いったいどんな魅力があるんでしょうか?
「一般の大根おろしよりも、力を使わず、食感が楽しめます。みじん切りとも異なったまとまり感が生まれるんです」
鬼おろしを使うと、どんなお料理ができるのか、ワクワクしますね。しおりさん、がりがりなますをおいしく作るポイントは?
「作りたてが、素材の味を楽しめるのでオススメですよ。もちろん馴染んでもおいしいですが。簡単に作れるので、食べる直前に作ってみてください」
それではぜひ、作ってみましょう!
★茨城 がりがりなます(4人前)
材料
大根:1/5本 にんじん:1/2本 生タコ200g 塩:少々 酢:大さじ1弱 オリーブオイル:大さじ1弱
1. 大根とにんじんはそれぞれ皮をむき、鬼おろしでおろし、塩少々を振っておく。
2. 生タコはお刺身を作る要領で、薄くスライスする。
3. スライスした生たこは湯にさっとくぐらせ、氷水にとり、身を引き締める。キッチンペーパーなどで水気を拭きとっておく。
4. 軽く水気をしぼった1の大根とにんじんをボウルに入れ、お酢を加え、さっくり混ぜ合わせる。
5. 3のタコを加え、オリーブオイルをたらし、和えて器に盛る。※オリーブオイルを使用することで、どんな食卓でも楽しめる一皿に。
できあがり!
身近にある食材で簡単にできる、普段のおかずにもおすすめな郷土料理。ぜひ日常の食卓でもお楽しみください!
書籍情報
日本の食生活全集8 聞き書 茨城の食事
著者:茨城の食事編集委員会編 出版:農山漁村文化協会(農文協)
日本の食生活全集とは:おばあさんからの聞き書きで、各県の風土と暮らしから生まれた食生活の英知、消え去ろうとする日本の食の源を記録し、各地域の固有の食文化を集大成する書籍。四季の食事に加えて、救荒食、病人食、妊婦食、通過儀礼の食、冠婚葬祭の食事等を記録している。
profile
Shiori Goto
後藤しおり
ごとう・しおり●実家は福島県で寿司屋を営む。ブータン料理店、野菜料理店などを経て、2012年7月に独立。世田谷を拠点にケータリング、ロケ弁、出張料理人として活動。不定期でアトリエでイベントなども行う。
http://gotoshiori.com/
photographer profile
Tetsuka Tsurusaki
津留崎徹花
つるさき・てつか●フォトグラファー。東京生まれ。『anan』など女性誌を中心に活躍。週末は自然豊かな暮らしを求めて、郊外の古民家を探訪中。コロカルで『美味しいアルバム』も連載中。
writer profile
Akiko Saito
齋藤あきこ
さいとう・あきこ●宮城県生まれ。コロカル編集部編集担当。好きな郷土料理は宮城県亘理町のはらこめし。
https://twitter.com/akiko_saito