屋台のようなお店でいただく静岡おでん
のれんをチラリ。先ほどいっぱいだったけど、運よく空いた木の丸椅子が見えました。お店に入って腰掛けると背中は引き戸すれすれの正面席。さあ、何を飲もうかな。初めての店では、メニューからの情報収集に時間を要しがち。こちらのお店は、目の前の壁、いえ、食器棚から冷蔵庫の扉までメニュー札がぎっしり。ドリンク類は、冷蔵庫の扉に磁石で貼られています。「レモンサワーください」お母さんから手渡されたグラスは、サワーにしては小さめだなと思ったけれど、飲んで納得。やたら氷の入った薄いものでなく、しっかり金宮焼酎にレモンがきいておいしい。グラスを置いたテーブル幅は15センチぐらい? お父さんが手渡してくれた取り皿を置くと、もういっぱいいっぱい。その先は同じ高さでステンレス素材になっていて、左から四角いおでん鍋、丸い揚げ物鍋、七輪が並びます。その調理台のまわりをコの字で囲むようにお客さんが座っているという仕組み。
さて、何を食べようかと悩んでる間に、両サイドからバンバン注文が入ります。まずは、おでんの牛スジとこんにゃくを頼むと、濃いめのつゆから串の刺さったおでんをお父さんがひょいと抜き取って、私の差し出したお皿にのせてくれる。かつおと青のりはそっちね。そう、静岡おでんは、かつおの削り粉と青のりをかけていただく。こちらのお店は、それぞれの容器から好みでスプーンでふりかける。関西人の私は、お好み焼き屋みたいと思ってしまう。串をつまんで、一口ぱくり。ふりかけた粉の風味、練り辛子の刺激とジューシーなおでんが口の中いっぱいに広がります。
おでんの余韻に浸ってると、アツッ! 油が跳ねました。目の前の揚鍋に串カツが3本投入。隣のお兄さんたちの注文はひっきりなし。こちらも蓮根をフライでお願い。その場で切られる蓮根のサイズは、手の平も指先までぐらいの大きな蓮根、その場で衣とパン粉をまとって、おいしそうに揚げられた。ソースたっぷりでお願いすると、丼に入ったソースにドボンとつけてお皿にのせてくれる。お父さんの菜箸でつままれた品が空中を軽やかに舞う様子は、圧巻。
聞けば、市役所の前の屋台の店々がこちらに移動してこの青葉横丁をつくったそう。三河屋は、横丁入り口角の人気店。店内には、屋台時代のお父さんのご両親の写真も。屋台と聞いて納得。このまま調理台つきテーブルの下に車がついたなら移動できそう。焼き物、漬物、どれも手抜きなしのおいしさ。あれもこれも頼んで、満腹ごちそうさま。お店全体の距離感もあって、和気あいあいと会話もしたけれど、青のりが歯についてなかったかなと、気がついたのは、帰り電車待ちの静岡駅。
Information
三河屋
住所:静岡県静岡市葵区常磐町1-8-7 青葉横丁
TEL:054-253-3836
営業時間:17:00~22:00
定休日:日曜休(月曜休の場合あり)
text & illustration
kao.ri hirao
平尾 香
ひらお・かおり●イラストレーター。神戸生まれ、独自の個性を発揮した作風で、世界的ベストセラー「アルケミスト」を始めとする書籍のカバーや、雑誌の挿絵、広告などで活躍。個展も多数開催。現在は、逗子の小山にアトリエを構え、本人の取材やエッセイなど活躍の幅は広い。著書本に「たちのみ散歩」(情報センター出版局)「ソバのみ散歩」(エイ出版社)
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