伝統祭祀の芸能を劇場で
沖縄の伝統的な祭のなかに、懐かしさを感じることがあります。たとえば豊年祭。これは神々に五穀豊穣を願い、実りに感謝し、祈りや歌や踊りを奉納するお祭り。
神に捧げる奉納舞台にむけて地域の人々が力を合わせて準備し、本番では小さな子どもからお年寄りまで、みんなで楽しみます。地域を守る神様と人々が一緒になり、祭で心がひとつになる日です。
また、沖縄各地の伝統祭祀で行われている祈りの所作には、琉球舞踊の手の返し方などに共通の所作が見られることがあります。こうした祭に触れたなら、沖縄の芸能の原点を垣間見られるのではないでしょうか。
とはいえこうした伝統祭祀は年に1度(または数年に1度)、定められた日にだけ行われるものです。また、地域のための地域の祭なので、舞台で見る機会はなかなかありません。
しかし国立劇場おきなわでは、民俗芸能の記録と保存も兼ね、一般の方が観賞できる舞台公演を年に2回ほど開催しています。
これまでに、沖縄本島各地や周辺離島、宮古や八重山(やえやま)の島々の奉納芸能などが国立劇場の舞台で披露されてきました。
そもそも、ほかの土地や祭以外の時期に披露するのは本来の姿ではないという意見もある、踊りや歌。門外不出のものもあります。こうした舞台公演は、地元の理解と協力が得られ、ようやく実現しているのです。
また、地域によっては「国立劇場の舞台に立てる」ということが励みになったり、地域の誇りになることもあるようです。
先日行われた国立劇場おきなわの民俗芸能公演では、西原町我謝区(がじゃ)の『獅子加那志(ししかなし)・御願(うがん)と獅子ケーイ』で、祭の大事な核となる“御願”(祈り)の部分も再現されていました。
また時には、ほかの地域では見られない珍しい踊りも。西原町幸地区の『柳天川(遊び天川)』は、軽快なリズムで膝を屈伸し爪先を跳ね上げるような足運びで、独特の舞でした。
その地域にしか継承されていない組踊(くみおどり)というものもあります。組踊とは、台詞と踊りと生演奏の歌三線が一体となった、琉球版オペラのようなもの。琉球王朝時代から続く琉球古典芸能の歌舞劇です。地域独自の組踊は地域の宝であり、身内から演者を選出することは、その家族にとって名誉でもありました。かつては演者に仕事を1か月ほど休ませ、食べるものに困らないよう、地域で支えながら稽古に専念させていたのだとか。また、そのことがその地域にそれだけ力があるということも示していました。
名護市宮里区には組踊が9演目も受け継がれています。そのうちのひとつの組踊『西南敵討(せいなんてきうち)』が国立劇場おきなわで上演されました。内容は人気の高い敵討物(親の敵を討つストーリー)ですが、宮里区にしか保存・継承されていない貴重な演目でした。 台詞はすべてうちなーぐち(沖縄方言)ですが、舞台両脇には標準語訳の字幕が表示されます。また、ステージガイドブック(400円)の販売も。理解を深めながら、舞台を楽しむことができます。 まずは国立劇場おきなわで、沖縄の伝統的な民俗芸能を堪能するきっかけをつくってみてはいかがでしょうか?
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国立劇場おきなわ
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沖縄CLIP
沖縄クリップは、沖縄の隠れた魅力や新しい情報を、沖縄在住のフォトライターが中心となって美しい写真とともに世界に発信し、沖縄の観光産業に貢献するという目的のプロジェクトです。沖縄が大好きな皆さまとさまざまなかたちでコラボレーションし、ともにつくりあげる新しいかたちの観光情報メディアを目指しています。
編集長 セソコマサユキ
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writer profile
Hiroshi Kuwamura
桑村ヒロシ
写真家でライター。沖縄写真デザイン工芸学校非常勤講師。新聞コラムを執筆(南海日日新聞『つむぎ』、琉球新報『南風』に連載中)ほか、離島出身で、島旅好き。沖縄の有人離島39島のうち、38島を取材撮影。島々の文化、魅力を日々取材し続けている。
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